父親の還暦祝い

父親の還暦祝い

父親の還暦は、ちょうど定年退職のお祝いも兼ねたものになるので、子供たちから、連名でプレゼント選びをしましょう、ということになりました。
どうせなら、名入れできるような物が良いね、でもしまい込んでしまうような高価な物ではなくて、いつも身に着けて使えたり、実用性のある小物とかがたのしいだろうな、とあれこれ考えていました。

そのうちに、妹から「革の財布とかはどうでしょう?」という話が出ました。母に聞いたところ、父は子供たちから20年近く前に贈られた小銭入れをぼろぼろになっても大切に使っているというのです。札入れは数年前に母がプレゼントしており、まだとうぶん使えるだろう、とのこと。
また、携帯電話のケースは?という話も出ましたが、当時父はガラケーユーザーであり、機種更新のたびに形や大きさがまったく変わってしまうので、意味がないんじゃないかとのことで残念ながら却下。
何かないかな、と母に相談してみたところ「ピルケースはどうかしら?」という言葉がでました。
父はその二年前に一度心臓を患っており、常にニトログリセリンを持ち歩いているという生活だったのです。数種類持ち歩いている薬はお弁当の包みの中に一緒に入れて持たせているけれど、強心剤のニトログリセリンは家の中の何か所かに常備しているし、本人も常にポケットの中に入れて持ち歩いているから、良いピルケースがあったら喜ぶんじゃないかしら、とのことでした。
妹と手分けしていろいろ検討した結果、レザーで、腰のベルトに着けて持ち歩ける小ぶりな物、しかも名入れが可能なメーカーに行き当たりました。そのピルケースはなめし皮で作られており、使うほどに色が深くなるというベージュのふたの部分に名前を入れてプレゼントしたら、父は余程嬉しかったようで、再就職した職場にも毎日持って行っていたのです。

子供たちからのプレゼントなんだよ、と周囲に嬉しそうによく話していたらしいのですが、そのことが後に彼の命を救うことにつながったのです。仕事中に心臓の発作を起こした父に、職場の方がそのピルケースからニトログリセリンを出して飲ませてくれたのです。
結局その発作はひどくてすぐに救急車のお世話になったのですが、お医者様が「ニトロを飲ませていなかったら間に合わなかった可能性が高い」とお話してくださいました。
まさか、そんなことになるなんて、当初は予想もしていなかったのですが。思いがけないかたちで忘れられない還暦祝いになったのでした。

その後、健康を意識し始めた父は、プールに通うようになり、今ではプールサイドでお酒まで飲めるようになりました。

還暦party
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